カスハラに対して企業が行うべき対応について解説!

前回の記事では、カスハラ(カスタマーハラスメント)の種類や放置した際のリスクについて解説しました。

今回は、カスハラ(カスタマーハラスメント)に関し、企業が負う義務と行為者が負う義務、企業が準備しておくべきカスハラ対策についてお話します。

カスハラに対して企業が負う義務

企業がカスハラ(カスタマーハラスメント)に対して負う義務は従業員への安全配慮とカスハラに対応する措置を講じる義務の2つあります。
これから2つの義務について解説していきます。

従業員への安全配慮義務

企業は、従業員に対し、「その生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務(労働契約法5条)を負っています。

これを「安全配慮義務」といいます。

カスハラに適切な対処をせず、従業員に精神的、身体的なダメージを負わせた場合、安全配慮義務違反であるとして、従業員から損害賠償を請求される可能性があります。

カスハラに対応する措置を講じる義務

企業は、従業員に対し、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じる義務があります(労働施策総合推進法30条の2第1項)。

こちらの法律はパワハラ対策として定められているものですが、カスハラについても言及されています。

また、令和6年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太方針2024)でも、「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する。」との一文が記載されました。

カスハラ関する相談体制の整備や、被害を受けた従業員への配慮など、カスハラ対策を明確に定めておく必要があります。

カスハラの行為者が負うこととなる義務

先ほどは企業が負う義務についてでしたが、カスハラをした顧客が義務を負う場合もあります。
それは、損害賠償責任と刑事上の責任です。

損害賠償責任

カスハラを行った顧客は、従業員に精神的、身体的にダメージを与えた場合、従業員や会社から、損害賠償を請求される可能性があります。

また、対応するために業務が増えたことで発生した従業員の残業代や、弁護士に対応を依頼した場合の弁護士費用の一部についても請求される場合があります。

刑事上の責任

カスハラは、その態様によっては犯罪が成立する可能性があります。
犯罪に該当する可能性がある行為は以下のとおりです。

犯罪に該当する可能性がある行為 罪  名
従業員等に対する暴力 暴行罪(刑法208条)

傷害罪(刑法204条)

従業員や会社の名誉を傷つける発言 名誉毀損罪(刑法230条1項)

侮辱罪(刑法231条)

従業員や会社に対する脅迫 脅迫罪(刑法222条)

強要罪(刑法223条)

従業員や会社に対し、脅迫等により恐怖心を抱かせ、金品等を要求した場合 恐喝罪(刑法249条)
暴行、脅迫、強要による業務妨害 威力業務妨害罪(刑法234条)
粗野、乱暴な言動で周囲に迷惑をかけた場合 軽犯罪法違反(軽犯罪法1条5号)

企業が行うべき対策とは

カスハラに対する企業の義務を果たすために、企業がすべき対応について、基本的な策をご紹介いたします。
従業員と職場を守るために、一つ一つ、企業の方針に合わせた方法で行っていきましょう。

カスハラ対応マニュアル策定

カスハラによってその場で混乱が生じないよう、事前に対応マニュアルを作成しておくことが、従業員の就業環境を守ることに繋がります。

従業員が戸惑うことなく対処できるよう、次の事項について、定めておくとよいでしょう。

現場での対応方法及び手順

顧客との関係や業種、企業文化により異なりますが、各社の方針に合わせたカスハラへの対応方法を事前に準備しておくことが重要です。

また、小規模な店舗等では、その場に責任者がいない場合も想定されます。
現場従業員のみでも対応ができるよう、基本的な対応方法を周知しておく必要があります。

基本的な対応方法のほか、カスハラの種類に合わせた対応例も準備しておくとよいでしょう。

内部連絡方法

カスハラの態様によっては、従業員のみで対処できない事態が発生します。
犯罪行為等により警察や弁護士との連携が必要となるケースでは、本社、本部と連携して対応にあたる必要があります。

そのため、あらかじめ「本社、本部に連絡が必要となる事項」及び「報告する際の連絡方法」定めておきましょう。

従業員への研修の実施

カスハラに対応できるよう、普段から研修等を通じて、従業員への周知、教育を行いましょう。
正社員、アルバイトの別なく従業員全員に対し、定期的に実施することが大切です。

内容としては、カスハラに対する企業としての姿勢や、正当なクレームと不当なクレームの違い及び見分け方、対応方法や接する際に気を付けること等、接客する際に有用となる事項を共有しましょう。

また、過去に発生した事案をケーススタディとして取り上げると、より実効性のある研修になるでしょう。

相談窓口の設置

カスハラの被害に遭い、ダメージを負った従業員のケアをすることは非常に大切です。

従業員のモチベーション維持、及び離職や休職に追い込まれることがないよう、適切なケアができる環境を整えておきましょう。

従業員の心の傷の程度によりますが、産業医や臨床心理士等の専門家と連携し、適切な措置を取ることが求められることもあり得ます。

また、カスハラには種類がたくさんありますので、カスハラの内容別にケア方法を検討しておくとよいでしょう。

再発防止策の検討、周知

実際に起こったカスハラ事例は、その会社の財産となります。
カスハラ被害に遭った際は、以下の2点をしっかり行ったうえで、会社としての方針を決定して対応していきましょう。

  • 顧客の主張の聞き取り及び記録
  • 事実確認

そして、記録した内容から原因を探り、再発防止策の策定及びマニュアルのブラッシュアップをしていくことが大切です。

また、勉強会や研修を通して、従業員への周知も随時行いましょう。
そうすることで、従業員全体でのカスハラ対策への意識も高まります。

まとめ

カスハラについて、企業の負う責任としておくべき準備について解説しました。
2025年には、カスハラ対策を行うことが義務化されると言われています。

現場でのカスハラの種類別の対応方法、会社としての対応方法、従業員のケアや再発防止など、検討することは山ほどあります。

どのように対策を立てればよいか分からない等、お困りの際は、ぜひ専門家にご相談ください。

また、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公開しています。

こちらにも、従業員の安全を守るためのカスハラへの様々な対処方法や企業として行うべき準備について記載されていますので、自社での対応策を考える際に、ぜひご参考になさってください。

カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

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