近年、企業活動と社会的責任の間の関係は、過去に例を見ないほどに強調されています。
特に、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の要素が投資判断の重要な要素となりつつあり、その中でも「S」、つまり社会的側面の重要性が高まっています。
この文脈で、人権デューデリジェンスが企業にとって重要な役割を果たすようになりました。
この活動は単にリスク管理の手段を超え、企業価値を向上させる機会としても認識され始めています。
人権デューデリジェンスのリターン
積極的な人権デューデリジェンスの実施とその結果の開示は、投資家、顧客、従業員からの信頼を高めます。
この信頼は、投資機会の拡大、企業ブランドの強化、優秀な人材の獲得といった形で、具体的なリターンにつながります。
さらに、人権に関する透明性は、企業が社会的責任を果たしていることの証しとなり、長期的な企業価値の向上に貢献します。
このようなリターンを得るためには、積極的な開示を行い、ステークホルダーに広く知ってもらうことが重要です。
人権デューデリジェンスの開示のアプローチ
媒体の選定
企業がどのような媒体を通じて人権デューデリジェンスの成果を開示するかは、その情報が望ましい受け手に届くかどうかに大きく依存します。
上場企業の場合は、有価証券報告書やCSRレポートが一般的ですが、非上場企業でも自社のウェブサイトやSNSを利用して開示を行う企業が増えています。
こうした直接的なコミュニケーションは、特に若い世代の消費者や仕事を求める人々にリーチするのに有効です。
内容の問題
開示する内容については、2022年に公表された人的資本可視化方針が有益な指針を提供してくれています。(https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf)
企業は自らの「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」といった4つの領域において、人権尊重に対する取り組みをどのように組み込んでいるのかを明らかにすることが求められます。
これだけ聞くと難しい話のように思えますが、要するに、経営陣のコミットメント、従業員との対話状況、バリューチェーンでの取り組みなど、各企業が行っている具体的な活動とその意味付けを企業の姿勢として示すことができれば十分です。
人権デューデリジェンスの開示のヒント
人権デューデリジェンスを行った際の開示のイメージは、実際の開示例を参考にすることが有用です。
その際、金融庁が公表している「記述情報の開示好事例集」がとても参考になります。
当該事例集では、「人権」の開示例の記載が、項目や記載方法に関してとても参考になります(https://www.fsa.go.jp/news/r5/singi/20231227/07.pdf)。
好事例として紹介されているどの企業も、自社の取組内容を図等を用いて視覚的に表現していること、想定されるリスクとその回避方法を記載しています。
また、人権デューデリジェンスの結果を定量的に分析し具体的な数字で示すことでステークホルダーへのアピールとなるとされています。
(上記金融庁の好事例集から引用)
結論
人権デューデリジェンスとその開示は、今日のビジネス環境において単なる法的義務を超えたものです。
これは、企業が社会的責任を果たし、持続可能な成長を達成するための戦略的なツールです。
企業がこれらの活動を積極的に進めることで、信頼の構築、企業価値の向上、そして長期的な成功への道を築くことができます。
自社の積極的なアピールの道具としても人権デューデリジェンスとその開示は有用なものとなっています。
人権デューデリジェンスを単なるコストとみるのではなく、未来への投資と考えて実行されることをお勧めします。