企業が発展するためには、利益を追求するだけではなく、社会的責任を果たすことも求められています。
特に近年、国内外問わず企業の人権に対する意識が高まり、人権に配慮した事業展開をする必要があります。
ここで重要なのが、人権デューデリジェンス(人権DD)です。
今回は、人権デューデリジェンスとはどういうものなのかについて解説します。
人権デューデリジェンス(人権DD)とは
人権デューデリジェンスとは、企業が自社やそのグループ会社の人権侵害に関するリスクを評価し、対策を講じ、結果を検証し、公表する一連のプロセスのことをいいます。
企業活動における人権侵害としては、例えば、劣悪な労働環境での労働、違法な低賃金労働、パワハラ、セクハラなどのハラスメント、人種、性別などによる差別的な取り扱い、などが挙げられます。
企業が人権侵害のリスクに十分に対応しない場合、人権を軽視する企業として、投資家や顧客や従業員から見放され、結果的に企業の信用が失われ、企業価値が毀損されるおそれがあります。
そのため、企業は人権デューデリジェンスを行い、人権侵害のリスクを抑え、万一人権侵害のリスクが生じた場合にはしっかりとした対策が取れるような体制を構築しておくことが肝要です。
人権デューデリジェンスを行うことは、2024年6月時点では法律上の義務ではありません。
しかし、イギリスやフランスなどでは、法令化が進んでおり、日本でも、政府が2022年9月に、企業が行うべき人権デューデリジェンスの指針として、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定・公表するなど、人権デューデリジェンスの義務化に向けた取り組みが始まっています。
人権デューデリジェンスのプロセス
人権デューデリジェンスのプロセスは、概要以下のとおりです。
人権侵害の有無の特定・評価
人権デューデリジェンスの最初のステップは、企業の業務活動における人権侵害の有無を特定し、評価することです。
これには、以下のような具体的なアクションが含まれます。
調査方法の選定はアンケート、面談、現地視察などを通じて、従業員や関係者からの情報を収集します。
サプライチェーンの調査: 企業の取引先や業務委託先など、関連する全てのパートナーに対しても同様の調査を実施します。
特にサプライチェーンでは、人権侵害が発生しやすいリスクが高まる場合があります。
リスクの優先順位付けは調査により特定した課題やリスクの深刻度を評価し、優先順位を設定します。
業界や地域によって、特定の人権侵害がより顕著である場合があります。
人権侵害の有無の特定・評価をすることにより、企業が優先的に取り組むべき人権リスクを明確にします。
防止・軽減するための活動
特定された人権侵害が存在する場合、企業は以下の活動を通じて、人権侵害の防止や、将来の人権侵害リスクを軽減するための措置を講じます。
具体的には、人権侵害が確認された場合は、直ちにその行為を停止する措置を実施します。
直ちに停止することが難しい場合は、顧問弁護士や影響があるステークスホルダーと協議し、緩和的な措置や監視方法について検討し、改善に向けたロードマップを作成します。
将来的な人権侵害を防止するため、具体的な再発防止策を策定します。
これには、従業員教育の強化、関係者への啓発、法令遵守の監視、問題の早期発見・報告システムの確立などが含まれます。
取り組みの実効性の評価
次に、実施した対策がどれだけ効果的だったかを評価することが不可欠です。
評価のポイントは以下のとおりです。
効果の測定は講じた対策が人権侵害の是正にどれだけ寄与したかを定量的および定性的に測定します。
質問票、ヒアリング、実地調査、または第三者による監査などが有効です。
改善点の特定は評価の結果から、改善すべき点や効果的な対応方法を洗い出し、今後の活動に活かします。
説明・開示
最後に、企業は、実施した人権デューデリジェンスの結果や取り組みをまとめ、HPや報告書などで情報公開します。
情報を公開することにより、企業の透明性と信頼性が向上し、ステークホルダーとの信頼関係が築かれます。
また、人権デューデリジェンスは一時的な取り組みではなく、持続的な活動が求められます。
将来にわたって人権侵害のない状態を維持するために、体制やプロセスの継続的な改善が重要です。
人権デューデリジェンスの全体的な進め方については【人権デューデリジェンスの進め方】の記事もご参照ください。
まとめ
今回は、人権デューデリジェンスとはどのようなものかについて解説しました。
人権デューデリジェンスを行うことで、企業の人権への配慮をアピールすることができ、より信頼できる企業と認められ、企業価値の向上に繋がります。
人権デューデリジェンスについてもっと知りたいという方はご相談ください。